スギヤマケイのコミュニティセンター

コミュニケーター・スギヤマケイのイベント情報など。イベント開催のご相談、コラボのお誘いはお気軽に!

【紹介】私が関わった学術研究をご紹介!

皆さんこんにちは!スギヤマケイです。

先日、13期目を迎えた国立科学博物館サイエンスコミュニケータ養成実践講座のSC1課題研究発表会を見に行きました。受講生がそれぞれ関わっている学術研究について紹介する「ディスカバリートーク」 (プレゼンテーション) を行う会で、皆さんそれぞれ、2か月間で学んだことを活かした分かりやすく楽しいお話をされていました。

f:id:k_sgym1116:20180819192151j:plain

 

触発されたので、私も大学院で携わっていた学術研究について、昔描いた図や撮った写真も使いながらご紹介しようと思います!

 

 

生物は化学工場である、という視点

私が関わった学術研究分野をざっくり言うと、"生命"を"化学"の言葉で明らかにしようとする分野です。

分子生物学と呼ばれる分野ですが、私が在籍していた研究室は更に細分化した「生体分子化学」という分野名を称していました。

 

つまりどういうものか。
ところで皆さんは、"生きる"とはどういうことだと思いますか?

 

「生きることは芸術だ」とか「生きることは愛することだ」と言うべき場面もあるかと思いますが、ひとまずこの記事では科学的に定義します。

"生きる"とは、"自らを保つべくたくさんの化学反応を起こすこと"です。

ヒトもコムギも酵母ミドリムシも、生物はみな「細胞」からできています。では細胞はというと、水やタンパク質、脂質、糖質など、結局は物質の集まりです。細胞の中では、必要な物質を化学合成し、必要な位置に整え、傷付いたら直し、複製して増やすといった、様々な化学反応が起こっています。

これが"生きる"ということです。生物は緻密な化学工場であるともいえます。

 

そして、生物の化学反応はバラバラに起こっているのではなく、記録媒体から製造方法を読み込んで合成装置を動かすという、きちんと秩序立った工程に沿って起こされています。

ちなみに、この記録媒体がいわゆる遺伝子で、その主な材質がDNAです。

こういった生物の化学反応における数々の工程やそこで働く物質について、化学的に解明しようとする学問分野が「分子生物学」です。

 

tRNAの修飾を調べる、という研究テーマ

中でも私は、生物の化学反応の根幹とも言える部分、記録媒体から情報を読み取り、対応する反応材料 (アミノ酸) に変換する装置の役割をもつ、「tRNA」という物質の丈夫さや性能について研究していました。

tRNAは自動車のように、大まかな形ができたあとに細々としたパーツを取り付けてはじめて機能するようになります。例えば、ミラーのない車は走らせたくないですね。

tRNAの細々としたパーツを「修飾」と言うのですが、この修飾の種類やパターンが生物種によってどう違うのか、個々の修飾が具体的にどう作用してtRNA全体の機能を左右するのかについては、解明されていない謎がたくさんあります。

修飾の種類が新しく発見されることもよくあり、私はこうした新しく発見された修飾の1つについて、化学構造とtRNA全体への作用を調べることを研究テーマにしていました。

f:id:k_sgym1116:20180819183922j:plain

修飾のある (成熟) tRNAとない (未成熟) tRNAの違いの模式図

(2014年のSC1受講時に作った図を流用しています。tRNAの大まかな形は、遺伝子のDNAを基に「転写」と呼ばれる工程で作られます。また、tRNAが直接情報を読み取るのは同じく「転写」で作られた「mRNA」という物質で、tRNAが対応させたアミノ酸を化学的に結び付けて「タンパク質」が合成されます。) 

 

どう見るか、という問題

そんな修飾を調べるにあたって、重要な問題があります。

どう見るか。

tRNAも顕微鏡では見えないほど小さい物質ですが、修飾はその中のほんの一部分です。そんなミクロな構造を見るどころか、修飾があるかないかでさえも、時間とお金のかかる手法を使わないと判別できません。

詳細は省きますが、ほんの一部分のわずかな重さを検知する「質量分析法」や、たくさん集めて結晶にしたtRNAに当てたX線の散らばり方からミクロな形を逆算する「結晶構造解析法」を駆使しながら、修飾の有無によるtRNAの変化を調べていました。

 

その過程では大量の綺麗なtRNAが必要です。大量の細胞を薬液に溶かした後何段階もの工程で精製するという作業に、私は研究室で過ごした時間の大半を割いていました。

f:id:k_sgym1116:20180819185007j:plain

大量の細胞を薬液に溶かす作業の様子 (2015年5月ごろ)

 

人類の知識を積み上げる、という価値

ちなみに、私が研究対象にしていた修飾は、「クレンアーキア」と呼ばれる生物種のtRNAに見つかったものです。酸性で高温の地獄のような環境に生きる、ヒトから遠くかけ離れた生物種で、この修飾もヒトのtRNAには見られませんでした。病原菌でもありません。

要は、この修飾について詳しく解明されたところで、医薬への応用も材料への応用も利かない、役に立たない研究テーマでした。

しかし、「役に立たない」ことは「価値がない」ことと同義ではありません。

生命について人類が解明できた知識を積み上げる、その学術的な「価値」のもとで、研究を進めていました。この価値を評価されて、極限環境生物学会という学会でポスター賞を頂いています。

 

学術研究の価値を量る物差しは、"役に立つか立たないか"ではありません。

人類が解明した知識の積み重ねに、どれだけ新しくて確固とした知識を加えるか。

それが学術研究の価値観です。

この記事を読まれた皆さんにも、そんな価値観と"知識を積み上げる"ことの面白さを感じていただければ幸いです。

f:id:k_sgym1116:20180819185859j:plain

私が在籍していた研究室の風景

↓私が在籍していた研究室のホームページです。専門的に興味のある方はぜひご覧ください。

rna.chem.t.u-tokyo.ac.jp



Sponsored link